憎いアイツによく似たアイツ

 ウチの職場は女子率も女子力も低い殺伐とした世界構成で夢も希望もありません。 が、そんな涸れ井戸で必死に女子女子してるあざとい女子が一名。

 容姿は決してキレイとは言えず、やや酒ヤケした声と淡い茶髪から、上司には『ヤンキー』と呼ばれている彼女。 「誰も私を女として見てないっしょwww」と笑いながら、女子が少ない=女子に馴れてない男子どもと必要以上に距離を詰め、ボディタッチもそこそこに明るく接し、分け隔て無く友好を深めるその姿はまさしく職場のアイドル、もといキャバ嬢。

 やる気のない男子の耳元で「頑張れば出来るでショ?私は信じてるからネ・・・」と甘く囁いたり、個別のケアも忘れない彼女に誤解する男子も多々。 約200人が働くフロアを牛耳らんとしている、魔性中の魔性、それが彼女の立ち位置です。

 ここまで見てお気づきの方もいるかと思いますが、そうです、この女、僕を苦しめた憎き魔女とクリソツなんです。 元ヤンとか八方美人とかハスキーボイスとか時折見せる色気とか貧乳とか、ドッペルかと疑うレベル。

 故に、彼女を初めて見たその日から、吐き気がするほどの嫌悪感丸出しな僕。 挨拶されても無視、すれ違う時は露骨に表情を険しくし、話題に彼女が現れた際には話を切り上げて仕事に戻るという、絶句モノの拒絶っぷりに周囲も「ヤンキーとなんかあったの?」と心配する始末。 や、本気で何も無いんですけどね。 会話したことすらないんですけどね。

 狙ってやってるワケじゃないし、特別意識してるつもりも無いんだけど、溢れ出る負の感情を止める事も出来ないんだよなー。 幸い、部署が違うから直接絡むこともないし、殴り合いのケンカとかに発展することもないから、無害と見なして放っておいてるんですけどね。 ドッペルっつっても似てる項目が多い同ジャンルの人間ってだけで、個々のポイントを追っていけば全くの別人なのに、人間の感情ってのは複雑怪奇ですなあ。

 

 閑話休題。

 

 職場の付き合いやらプライベートの飲みやらが多すぎて、金が全く追いつきません。 給料が前職場の1.5倍になったっていうのに、出費も2倍近くになってちゃあ手が着けられないよ。

 かといって友人や上司との付き合いを削るワケにもいかず、どこで節約しようかーって考えたら自ずと食費や光熱費にメスが向く。 年齢的に、そこを削っちゃうとそろそろボロが出てくる時期に差し掛かってんだけどなあ・・・。 生きる為の生活には変えられない、かぁ。

 つうワケで昔は手作り弁当、一時期は弁当屋の弁当だった僕も、今じゃすっかりカップ麺生活です。 栄養云々の話をしたところで、一食200円以下で満腹になるカップ麺はやはり魅力的なのだよ。 給湯室からオフィスに戻るまでの通路がちょっと恥ずかしいけど、マネーには変えられないね! 一時の恥より未来のマネー! はーいどん兵衛野郎が通りますよぉーっと! そこのけそこのけぇーっ!(やけくそ)

 そんなオフィスと給湯室の間はオートロックの壁で阻まれておりまして、カップ麺を持ちながらロック外すのが実は一番の難関。 キーを打ち込む時の振動でお湯が漏れようものなら・・・ハッ、僕がそんな器用なアクション出来ると思うなよォォーーッ! この程度の試練ですら、全身全霊で挑まないと敗北必至ッ! それが我が業ッ! だが挑むッ! これは負けられない戦い也ッ! 金欲に塗れた現代社会との一騎打ちn

 

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 ってふあああァァァーーーーーーッ! ここで業務用端末にCall! Call me Call meィィィ! とりあえず取るッ! 食事より仕事優先これ当然ッ! ハイもしもsふあああァァァーーーーーーッ! 右手に電話左手にカップ麺んんんンーーーーーーッ!!! これじゃどうあがいてもオートロックは外せないッ! ナンバーを打ち込めないッ! なんで電話とる前に気付かなかった僕ッ! 取る前にピピッと操作すれば良かったのに僕ッ! しかしもう時間は戻らないッ! 都会では時計の針を戻せないッ!(どこだってそう)

 しかし仕事をこなす為には電話を取るだけではなく、自分の仕事用デスクに戻らなくてはならない・・・ならばやはりこの扉・・・この扉を開け・・・、・・・ッ! だめやッ! 電話持ってる手もどん兵衛持ってる手もキーは叩けへんッ! ぷるぷるしてまう! ・・・となればやはり、どん兵衛を置くしかッ・・・! 一般客も訪れるフロントにどん兵衛を置いてオフィスに入るしかッ・・・! でもこれ、バレたら地味に怒られそう・・・社会人としてはあまり受けたくないジャンルのお叱りを受けそう・・・だけど・・・されども・・・だがしかし・・・、・・・んにょおおおおおォォオォオーーーーーッ! 他に方法が思いつかないっにょにょにょにょにょんにょおおおおおォォオォオーーーーーッ! 助けて神様ンヌゥゥゥゥゥウューーーーーーーッ!

 

 約3秒ほどの間に↑のような葛藤を抱えて焦燥する僕。 そこに、フロントを横切る影。

 

 ・・・誰だッ!? まさか知り合いッ!? ちょ、ま、ちょっ、今はまずい! ドアを開けてもらえるとかもらえないとかそれ以前に、恥部としか言い表せない今の状況を見られることは避けたいッ・・・! お願いッ、ちょ、待って、今のアタイはアタイじゃないの! クッ、右手が疼くッ・・・コイツが勝手に電話を、電話とどん兵衛をコラボレェションやがなぁぁあぁぁっひあひあひxひぃいぃ~~~~~ッ!

 ・・・ってなんだヤンキーか。 んだよ、さっさと行けよクソアマ。 どうせカップうどんすすってるような負け組はアウトオブ眼中だろうが売女。 テメェみたいなんは昼からウン千円のランチ気取って休日にはオープンカーで波打ち際をドライビング・・・なんてクソチャレえ生活送ってる脳湧きDQN探してモーションかけてりゃいいんだよ。 せいぜい周りの男を豚扱いで見下してろ。 見上げるも何もテメエは視界に入ってねえし割り込ませたくもねえ・・・ッく、目が合った。 なんだよ、やんのか? 見下すのか? イケメンじゃない男は廃棄物だって決めつけた上で、哀れみの情でもかけてくれんのか? ざけんなよクソヴィッチ。 テメエみたいな尻軽とは刹那ほどの時間も共有したくねえんだよ、哀れんでくれんならせめて僕の周囲で呼吸するのを止めてくれ、どんな些細な細菌でも交配したかねえんだよ去れ、去れ去れ去れ去れ去れ去れ去れってオイなんで近寄って来んだよヒッやめてもしかして僕の思いを見透かして全部ぶっ壊そうとしてぎゃばばば待ってそれ以上近づかないでなんでもするから助けてもう許してこれ以上僕から何も奪わないでひぎぎいいぎぎいいいいい怖いよおょおぉぉおぉぉおぉおおおお母さささああぁぁぁぁぁぁぁぁああママァァァァァーーーーーーーーーーッ!!! ひぎぃぃぃいィーーーーーーーーーーーッ!!!!

 

 ピッ ピッ ピッ ピッ ・・・ガチャ

 

 ・・・えっ? オートロックを解いてドアを・・・ウソ、両手が塞がった僕を助けてくれようっての? こんな歪みきった対応をし続けた僕の為に、その指でキーを叩いてくれたっていうの? 信じられない・・・ど、どうせ自分がオフィスに用事があったから入ろうとしただけ・・・えっ? 早くどうぞ? 電話してる僕に気を遣って口パクだったけど、そう言ったの? ま、まさか本当に僕の為に・・・僕のどん兵衛の為に・・・この子、まさか、まさかこの子、もしかして・・・僕のことが・・・好き? えっ、ウソ、でもそうとしか・・・マジかよ・・・オイオイ、まいったなコンチクショウめ・・・よくよく見たらコイツ、カワイイじゃねえか・・・ヘヘッ、こんな身近にいたとはな・・・僕にとって大切な存在が。

 

 ウチの職場には、女神がいます。

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