はじめに

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 高校1年生。 青さ溢れる実りの季節。 あたふたしている間に時間はあっという間に過ぎて行き、僕にも一応の友達が出来た。 気がつけばグループで動くことも多くなり、その日もいつも通り、気の知れた友人たちと街を歩いていたんだ。 友人の一人が不意に口を開く。

 

 「ごめん、俺用事あるから、抜けるわ」

 

 好奇心旺盛で毎日が退屈、そんな高1の野郎の群れはいつもと違う空気を敏感に察し、質問をする。 何の用事? と。

 

 「これから女友達と遊ぶんだよねw」

 

 彼女のいない7人の前で彼が言い放った言葉は、その後の展開を容易に推測させるものだった。 そしてそれが総ての始まりだったのかもしれない―・・・

 

  * * * * * * * *

 

 季節は冬、街並みは白。 むさ苦しい野郎が8人、雪道を闊歩している。 大半の男たちが、友人Aが抜け駆けしてまで会おうとした女の子の素性に考えを巡らせている。 どんな子かな、かわいいかな。 淡い想像は表情に漏れ、自ずとニヘラニヘラと気色悪い笑みを浮かべた男集団が出来上がる。 良く通報されなかったものだと今になって強く想う。

 その渦中にあって、僕は全く別のことを考えていた。 女の子・・・だって? 僕は中学3年まで、いやつい最近、高校に入り、仲の良い友達に彼女が出来るまで、女との交友がほぼゼロだった。 そう、遊んでいた女の子といえば、友達の彼女。 つまり人のモノで、性別を超えた友人と呼ばざるを得ない存在ばかりだ。

 

 そんな僕がイキナリ、初見の女の子と遊ぼうだなんて。

 ハッキリ言って無謀だ。 危険すぎる。

 

 でも考えてみれば、こっちは野郎8人。 相手はたったの1人だぞ? 場所だってファミレスのようだし、一番端の席を取れば、遠すぎて会話なんか成立しない。 これを『遊ぶ』と表現していいんだろうか? むしろ一歩間違えれば輪姦になりかねないような状況で、僕は何をビビってるんだ。 ビビるならどう考えても先方だろう。

 周りを見て見ろ。 ビビってるヤツなんていやしない。 なればこそ、努めて冷静に。 そう、これはミッションだ。 自らを欺け、周囲に同化しろ。 この窮地を乗り越えた時、僕は真の意味で彼らと友達になることが出来るだろう。 さぁ、食わず嫌いは吐き捨てろ。 高校デビューを、今こそキメてみせる――!

 

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 そんな不安を虚勢で隠しながら、女の子と対面しました。

 どうもー瀬駆でーすってアレアレアレ~? 結構可愛いじゃ~~ん? うぅむ、程好い肉付き、明るい笑顔、なかなかの高得点だな、・・・よし、評価B(僕基準)を与えよう。 これは極めて名誉なことであるぞ? まぁ今後も精進したまえ。 頑張り次第ではAにしてあげない事も無いからな、あっはっは。 ア~~~~~ッハッハッハ!

 

 ・・・なんて事を一番端の席で黙々と妄想する16歳。(テーブルをガン見しながら)

 

 だって可愛いんだよ? っていうか女の子だよ? 女の子が息を吸って吐いてるんだよ? 嘘でしょ、ありえないでしょ。 あんなムチムチのぷりぷりが僕と同じ人類にソートされるなんて考えられない。 なんかこの距離でも既にイイ匂いする気がするし、おっぱいのもっこり具合は男のもっこりとはワケが違う。 ああああああ無理無理無理無理、アレとは喋れない、アレとは同じ空気吸ってるだけで申し訳ない。 性別を超えたお付き合いなんて出来ねぇよ! ペッティングなんて実現不可能の難題だよ!(誰も求めていない)

 なんて具合にどんどん混乱し、どんどん自分を追い詰めていく僕。 っていうか距離も遠いし、僕がわざわざ話に入っていく必要なんてないよな。 周りには7人の男が控えている事だし、全員と話していたらそれこそ日が暮れる。 ならば僕はここで黙っていれば、黙ってさえいれば安全なんだ。 よし、黙るぞ。 僕は岩の如く黙り、通してみせるぞよ。 おーし落ち着いてきた。 黙ってりゃいいと思えば落ち着いてきた。 さーて水、水、ファミレスと言えば水飲まないとねー。

 

 「そういえば一番端にいる瀬駆って(バンドの)ボーカルやってるんだよねー」

 

 

 なんで話振ってくるのぉぉぉおおおおおおぉお(グラスをブルブル振りながら)

 しかもなんだよその振りは! 確かに音楽やってるけど、ただのコピーバンドだし、お遊びバンドだし! バンドのボーカルなんて、僕があたかもモテ系かのような! 情報だけ聞いたらモテ系を連想するような情報を与えやがって! そんな先入観、こっち見た瞬間終わるんだよブチ壊しなんだよただの根暗系デブヲタクなんだよごめんなさい! 生まれてきてごめんなさい! 空気汚してごめんなs

 

 「へぇ~、ボーカルやってるんだ~。すごいね~

 

 

 

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話 し か け ら れ た

 

 

 ひゃ、ひゃああああああああ!!! ぼ、ボクのようなデブヲタに聖女が! 聖女が語りかけてくるだなんて! しっ信じられなぁぁぁ~~~~い! 信じるとか信じないじゃなくてむしろありえなぁ~~~~~い! こっち向いてるよっひゃぁ~~~~~~! こっちに向けて声を、吐息を、口臭を吐きかけてるよっひゃぁ~~~~~ックンカクンカ! クンカクンカクンカクンカ話しかけられクンカ! 話しかクンカクンカけらクンカクンカクンカクンカれたクンカクンカクンカクンカクンんクンカクンカだ! 何か返クンカ返クンカ! 真性のヲタクだと思クンカ! ボクはヲタクじゃない! ヲタクじゃなっ、すぅぅぅ・・・はぁぁぁ~~・・・いんだああああ!!! 良い匂いだぁぁぁ~~~~~!!!(気狂い)

 

 

 「あ・・・どうも・・・」 ←会話終了

 

 

いつから錯覚していた?
 

  * * * * * * * *

 

 という具合に、男達が次々と質問を浴びせて行く中、完全に鏡花水月を喰らった僕。 席も端のそのまた端、壁と肩がくっつくんじゃないかってくらい離れた場所に座り、たまに話を振られても苦笑いで流し切り、完全催眠をより確固たるものにしていました。 挙句の果てには便所に行ってきまーす、とだけ言い残して1時間。 吐くか吐かないかの瀬戸際に立たされながら、じっと個室籠城。 女一人しかいない空間が気持ち悪すぎて、いわゆるギブアップ状態ですよ。 ちょっとクンカしすぎたのかな。

 そして結局、彼女が便所に行った隙に個室から脱出、そのままカバンを持ち去って逃亡。 周りの人には凄く迷惑かけたと思います。 だけどそれぐらい当時の僕はピュアで、女苦手で、人見知りだったのです。 可愛いなぁ、当時の僕。 なんでほっといたの当時の周り女子。(キモヲタだからです)

 

 高校デビューはあえなく敗退、苦い苦い黒星がついた僕の初戦。 現場にいた友人はこの日のことを8:1事変と呼んでおります。 が、しかし、冒頭にも述べたように、この事変は総てのはじまりに過ぎなかったのです。 この一部始終を見て僕の将来を不安に思ったある一人の男によって、日常が修羅と化す事になろうとは。 この時はまだ、予想すらし得なかったのでございます・・・。